星祭りに



「―――」
ミッションから帰ってきたロックオンが部屋に入ってくるなり出したものを、ティエリアは凝っと見つめる。
それは色紙で作った小さな輪や星、短冊で飾り付けられた高さ二十センチほどの笹を模したものだった。
「―…ティエリア?」
動かず、無言のままの様子にロックオンは怪訝そうに声をかける。
「これは…」
「七夕飾りだ」
やっぱりと、ティエリアは心中小さく溜息をつく。
少し前、もうすぐ七夕だと話していた記憶がある。
本当にこの人は、こんなハロウィンだ何だのをよく覚えているものだと感心する。
「大変だったんだぞ、アレルヤ達に見つからないように持ってくるの」
「えっ?」
「ああ見えてあいつら、結構、お祭り好きだしな」
確かに。
アレルヤは率先して準備に加わるし、刹那もちゃっかり自分の要求は通しているようだった。
ティエリアも以前ほど皆といることに抵抗はないものの、騒がしいのは苦手なままだった。
「…では、これは?」
「ん?ティエリアと二人で楽しもうと思ってさ」
「俺は、皆とするのかと…」
「こういうのはおまえと二人っきりでしたくてな」
耳元で囁かれて、ティエリアの頬が薄く赤らむ。

七夕は東洋の一部の国に古くから伝わる星祭りの年中行事。

「本当は地上に降りて星を見たかったんだが…」
ちょっと無理だったなと、ロックオンは苦笑する。
「一年に一度の逢瀬だもんな。しかも雨が降ったら逢えないなんて、ひでぇ話―」
「いえ、雨が降ったら、鵲の群れが翼を広げて橋をつくり、織女を向こう岸に渡してやるとも言われています」
「へぇ…」
と、ロックオンは感嘆した。
「……でも…」
ティエリアは渡された七夕飾りをぼんやりと見つめる。
逢えるのは一年に一度だけ。
そんなに長い間、離れたままで、ずっとお互いを想い続けることができるのだろうか。

「俺はずっと想っていられるぜ?」
心を読んだかのようなロックオンの言葉にティエリアは顔を上げた。
「……無理ですね」
「何?俺って信用ない?」
「あなたを信用してない訳ではありません…あなたは、優しいから──」
誰にでも優しいこの人はきっと、側にいて彼を必要とする人の力になろうとするだろう。
もし、その誰かが彼を、ロックオンを、と言ったら───
「あのなぁ、ティエリア。おまえから見れば俺はお節介なところもあるんだろうが、好きでもない奴とどうこうできるほど、酔狂じゃないんだぜ」
ロックオンはティエリアの顔を覗き込むようにして言葉を続ける。
「それに、ここまで本気になったのも、執着したのもおまえが初めてなんだからな」
「執着?」
「ああ。おまえの姿が見えないと辛いし、触れられないとどうにかなりそうだ」
ロックオンはティエリアを抱き寄せる。
「いつもそんなだからさ、むしろおまえの方が俺に嫌気がさして離れていくんじゃないかと―」
「そんなことはありません」
凭れていた肩口からティエリアは顔を上げてはっきりと告げる。
「俺はあなた以外なんて考えたこともありません」
真っ直ぐに見つめてくる紅い瞳。
それは恋愛の駆け引きなど知りもしないティエリアだからこそ。
さらりと告げられた殺し文句にロックオンは苦笑いするしかない。
この無自覚な可愛さを誰にも渡したくないとまた思ってしまう。
「ロックオン?」
困ったような表情の彼にティエリアが訊ねる。
返事の代わりにロックオンはティエリアの額にキスをして、再び抱き寄せる。
「ティエリア、短冊の願い事を俺が書いていいか?」
「なんて書くのです?」
「ティエリアが俺の嫁になってくれますように」
「!――調子に乗らないで下さい」
「いてっ」
どんと、ティエリアはロックオンの胸を突いて離れる。
「だって、俺だけなんだろ?」
「し、知りませんっ」
「ティエリア?」
「知りません!」

繰り返される全ては睦言にしかならない。

想いを強く信じる限り――






080707