レディ、レィディ!
「ティエリア、ちょっといい…」
ドアをノックして部屋に入ったロックオンは、そのまま固まった。
「ロックオン?どうしたのですか?」
目を見開いて、微動だにしないロックオンにティエリアは首を傾げる。
「ロックオン?」
もう一度名を呼んだけれど、まだ彼は動かない。
それもそのはず。
今、目の前にいるティエリアは長い黒紫の髪に、鮮やかな赤いドレスを身に纏っている。
しかも、そのドレスは露出が高く、体のラインがよくわかるマーメイド。
細く白い首筋や二の腕も晒されて、さらにその胸元には、豊かな女性特有のラインがあって―――
「ロックオン?」
傍で顔を覗き込むように名を呼ばれて、やっと我に返った。
「…どうしたんだ?その格好…」
「ミッションのための準備です」
そういえば、さっき、ミス・スメラギが急なミッションの事を何やら言っていたのを思い出す。
「――何て顔をしているのです?」
眉根を寄せ、難しい顔をしているロックオンに、ティエリアが怪訝そうに訊ねる。
「え?」
「今までも、…見ているはずだ。あなたは」
確かにそうだ。
今までも情報収集などのミッションで女装したティエリアと行動を共にしたことはある。
だがそれは、ワンピースや、ごく普通の格好でだ。
それだけでも可愛らしく、魅力的だったのに。
こんな美しい姿を見せられては直ぐには言葉も出てこない。
ティエリアは本当に自分の容姿というものを分かっていないと、つくづく思う。
「……やはり、変なのですね…」
小さな呟きが聞こえ、見るとティエリアは視線を落としている。
「違う、違う!逆だ!」
「えっ?」
「似合ってて、綺麗過ぎて困ってるんだよ、俺はっ」
「ロックオン…」
恥ずかしそうに、ティエリアの目元が紅くなる。
「あー、ダメだ」
諦めたように叫ぶと、ロックオンはティエリアを抱きしめる。
「ちくしょう、誰にも見せたくないんだけどなぁ」
その言葉にさらに頬を紅く染めながらも、ティエリアもロックオンの背に腕を廻した。
「けど、何でドレスなんだ?」
「潜入場所がパーティー会場ですから」
そうか。
ならば、イブニングドレスなのも仕方ない。
「おまえ、一人で行くのか?」
「刹那がバックアップにつきます」
「―お、それならミス・スメラギに言って変えてもらうか」
「それは無理です」
やけにきっぱりと言う。
「先ほど、スメラギ・李・ノリエガに言われました」
『いい?このミッションのパートナー変更はなしよ。例え、ロックオンが何と言ってもね!いいわね!?』
「………」
しっかりバレている。この姿のティエリアと行って、俺がそのまま直ぐに帰ってこないことを。
さすが戦術予報士。
「あなたも、あなたのミッションを遂行してきて下さい」
「ああ。けど、変な奴らには気をつけろよ」
「一応、良家の子息の集まりだそうですから」
クスと、ティエリアは微笑う。
寄せ合っていた身体をお互いに名残惜しそう離し、ティエリアはドアへと向かう。
ドアを少し開けて。
「―僕も、あなたがいてくれた方が、心強いのですが…」
伏し目がちにそう言って、ドアが閉じられた。
「まったく、あいつは…」
あんな可愛い台詞を残していくなんて。
頭を掻きつつ、ロックオンは顔が緩むのを止められなかった。
終
081130