〜再〜




刹那はティエリアの部屋のドアインターを押した。
けれど、返事はない。
自室にいると聞いたのだがと、開閉ボタンを押すとドアが開いた。
ロックをしていないことを意外に思いながら中へ入った。

ティエリア、と呼ぼうとして、やめた。
彼は机に顔を伏せている。眠っているのだろうかと、そっと近づいた。

「……」

傍に来てもティエリアはそのままに、眠っていた。

艶やかな紫の髪。
白い肌に長い睫が影を落としている横顔。
四年前と変わらない綺麗な――

さら、と紫の髪が一筋零れた。

触れてみたい衝動が刹那に沸き起こる。

手を伸ばしかけて、ふと、思い出した。
あの頃、ロックオンがティエリアの髪によく触れていたことを。
勿論、ロックオンはティエリアだけでなく自分やフェルトにも同じようなことをしていた。
まるで年長者の特権でもあるかのようなそれが、初めは鬱陶しくてしかたなかった。
けれど誰にでもそうしているのだと、同じなのだと気にしなくなった。
ティエリアが不快感を表さなくなったのも諦めたからだと思っていた。
だがそれは、そうではなかったのだ。
ロックオンのティエリアに見せる仕種や瞳が、他の者に対してとは何かが違うように思えたことも、ティエリアの反応が変わったことも漠然とは感じていた。

けれどそれが何なのか分かったのは、ずい分と後になってからだった。


刹那は目を閉じた。
数時間前も刹那はここに、ティエリアを訪ねてきていた。



『おまえの意見を聞きたい、ティエリア』
『――もう、決めているのだろう?』
その男を、新しいガンダムマイスターとして迎えることを。
『ああ』
『ならば何も言うことはない』
『……』
『――大丈夫だ』

儚げな微笑みを浮かべて、ティエリアはそう言った。
初めて見る表情だった。
『大丈夫だ』、ティエリアのその言葉は深く胸に落ちていった。



刹那は目を開けると、指先でティエリアの髪にそっと触れる。
思っていた以上に柔らかく心地よいそれに、刹那は我知らず目を細めた。

わずかにティエリアの唇が動いた。

「―――」

刹那は手を戻し、ティエリアに背を向けると外に出た。
ドアが小さな機械音をさせて閉じる。

わずかに動いた唇から聞こえた言葉は、『ロックオン』だった。
今でもティエリアが愛している者の名――

それでもティエリアは、いや、俺達は―――

刹那はその場を離れた。



ふっと、ティエリアは目を覚ました。


「――刹那…?…」

何故か彼の気配を感じてティエリアは、呟いた。






081018