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比べられたら堪らない。
このセリフの度に自暴自棄になる。
比較されることはいつものことだった。同じ顔、同じ声、双子だから当然だ。
ここの奴らにとって、兄は本当に特別だったように思う。
慕われていたんだろうな、あの人は…
「ここにいたのか」
不意にした声にライルは我に返る。ティエリア・アーデだった。
「君のシミュレーションの結果を見せてもらった。遠距離射撃の数値が低いな。ケルディムは―」
「あんた、」
言葉を遮るように言った。
「あんたも兄さんとオレを比べてるんだろ?」
紅い瞳がわずかに見開かれた、ように見えた。
「――何か新しい事象に遭遇したとき、以前の類似事項等に照合、比較し、自らとの位置、対処法を決める。それが人間というものだろう」
「………」
言われたことを理解するのに二秒はかかった、と思う。
「'ロックオン・ストラトス'が君の前に存在する」
比べられるのは仕方ないってことなのか、兄さんと。
「その前任者が、君の兄だった。それだけだろう」
「え?」
「ロックオン・ストラトスの名を継いだ以上、それだけのことはしてもらう――君の‘ロックオン・ストラトス’を示せ」
真っ直ぐにこちらを見て、凛とした声で突き付けられる。
‘君のロックオン・ストラトス’と。
今までと違うロックオン・ストラトス、オレ自身を見せろと。
「―は、あはは…」
自嘲めいた笑いが漏れる。
何のことはない、拘っているのはオレの方か。
双子である以上、姿形は変えられない。けれど、別の人間、人格だ。
さすがは教官殿だと、ライルは独りごちた。
終
081030