〜想 陽〜
自室に戻るとティエリアは、制服の襟をわずかに緩め、息をつく。
机へと向かいかけて、つと、壁に寄り掛かり右側面を凭れさせた。
「……」
ことりと、頭も預ける。
あの男はニールではない。それはよく分かっている。
分かって、理解しているはずなのに。
姿形が酷似していても、話し方も雰囲気も違う。
当然のことだ、別人なのだから。
その姿が、声が、似ているから、ニールと重ねてしまいそうになる。
時折、はっとするほどに似ているから――
ふっとティエリアは自嘲する。
これも当然。彼らは双子。遺伝子レベルまで同じなのだ。
―ロック…オン…―
気を抜くと気持ちが引きずられそうになる。
だからなのだろうか、あの男の軽い口調が神経に障るようで、つい構えてしまう。
もし、ニールと一緒に会っていたら、こんなに動揺することはなかったのだろうか。
もし彼が言ってくれて――
ふと、ティエリアは思い出した。
あれは、地上で次のミッションまで待機しているときだった――
「…ティエリア、あのな…」
ベッドで肌を寄せ合っていたロックオンが戸惑ったような、それでいて真面目な声で呼んだ。
「はい?」
「おまえに会わせたい、やつがいるんだ」
「え?ですが…」
「あー守秘義務とか言うなよ、ってか、んー…」
ロックオンが半身を起したので、ティエリアも起き上がる。
「会わせたいというか、いや、会わせなくても…いや、でもな」
腕を組んだり、頭を抱えたりして、何やら唸っている。
「ヤバいかもしれんしなぁ…」
ちらりとこちらを見て、また考え込んでいる。
「?」
悩んでいるはずの彼の表情はどこか嬉しそうでもあり、ティエリアは不思議だった。
結局はそのままになってしまったけれど。
あれはライルのことだったのだろう。
彼の兄弟のことはデータとしてティエリアは知っていた。
だが、ロックオンが、ニールが自分から話してくれるまでは言うことではないと思っていた。
ティエリアは微笑んでいた。
温かな愛しさが胸に広がっていく。
そうだ、彼は兄弟に会わせようとしてくれていた。その気持ちが、想いが嬉しかった。
ティエリアは胸元に手を置いた。
「大丈夫…」
――あなたは、ここにいる…――
一度目を閉じ、ティエリアは視線を上げた。
終
081116