「ティエリア」
「ロックオン…!」
不意に現れた彼に、思わず持っていた箱をロックオンから見えないように後ろに隠す。
「何やってんだ?こんなとこで」
「あなたこそ、パーティーはもう終わったのですか?」
「ああ。もうお開きだ。リヒティが限界になったしな」
「そうですか…」
ティエリアは視線を落とした。
――今渡さなければ――
「―ロックオン、これを…」
ティエリアは隠していた箱を差し出した。
「え?」
「プレゼント、です…あの…!ロックオン?」
いきなり抱きしめられてティエリアは驚く。
「嬉しいよ、ティエリア」
ティエリアの性格を分かっているとはいえ、正直なところプレゼントが貰えないことに少しばかり凹んでいたのだ。
その分嬉しさは倍増だ。
「…ロックオン」
「ありがとな」
「いえ…」
耳元で聞こえる嬉しそうな声にティエリアは、渡せて良かったと安堵する。
――と。
「んなとこでなぁに、二人でやってんだぁ?」
揶揄するような声に振り向くと、庭へと通じる戸口にアレルヤ、いや、ハレルヤがいて、にやにやとしている。
「はっ、やっぱりプレゼントは僕ですぅ、なんてやってんのか、ティエリアさんよ」
「ハレルヤ、さっきも言ったが、何故俺がそんなことをする必要がある?」
「へ?」
「そんな無意味なことなどあるはずがない」
「―――」
「へいへい」
ティエリアの平然とした態度に興醒めしたのか、ハレルヤは中に入っていった。
「―ロックオン?」
ふと見ると、彼は何か考え込んでいるような顔になっている。
「どうかしたのですか?」
「いや…おまえさ、」
「はい?」
「あいつの言った意味、分かってるのか?」
「ええ」
「―って、どんな風に?」
「?―ですから、プレゼントを用意していないのなら、僕がプレゼントになれということでしょう?」
確かにそうだ。表面上の意味はその通りだ。
「そんなことは有り得ない」
「そっ、か…」
ロックオンは苦笑してわずかに肩を落とす。
「違うのですか?」
「違わねぇけど…俺としては、それでもいいかなぁーと…」
目を逸らし、右手の人差し指で頬を掻きながら照れ笑いをする。
実はそれも考えていた、とは言えないが。
「……」
黙ってしまったティエリアに、不味いことを言ってしまったかと思い見ると、彼はきょとんとした顔をしてこちらを見つめていた。
「ティエリア?」
「ロックオン」
「は、はい?」
「プレゼントというものは、その人が持っていないものの方が良いのですよね?」
「まあ、な」
必ずしもそうではないけれど。
「でしたら、僕はあなたへのプレゼントにはならない」
「えっ?」
「僕はもうあなたのものだ。だからプレゼントにはならない」
真顔でさらりと告げるティエリアに、ロックオンは自分の顔が赤くなるのが分かり、右手でそれを覆う。
まったくこいつは何てことを平気で言うのだろう。
下心を持っていたことが恥ずかしくなる――と言ってもそれがなくなったわけではないのだが。
「ロックオン?」
「いや、何でもねぇよ」
言いつつ、顔を隠した手がなかなか外せない。今自分はしまりのない表情になっているはずだ。
「不思議です」
「あ?」
「何故あなたとハレルヤが同じことを言うのか」
ティエリアは首を傾げる。
「他に何か意味が――」
「もう、中に入ろう」
動揺を隠しながら、ティエリアの思考を遮るように言い、引き寄せる。
「ほら、身体が冷えてる」
腕の中の身体はすっかり夜気をはらんでいた。ロックオンはティエリアの髪を撫でて口付け、深く抱きしめる。
ティエリアもロックオンにその身を預け、彼の背に腕を廻す。
「…ティエリア、部屋に戻ったらもう一度祝ってくれるか?」
二人だけで。
「はい…」
もう一度、あなたにおめでとうを。


深い青と紅が揺れ、唇が重ねられた―――










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