「…つめ…」
暫く自分の指先を見つめていたティエリアがぽつりと呟く。
「えっ?」
でもやはり、これくらいは言ってやりたい。
「僕も爪を伸ばしましょうか。引っ掻かれるのが好きな人がいるようですし」
ふふっと妖艶な笑みを浮かべる麗人にロックオンの体感温度は再び下がっていく。
「えっと、それはちょっと…」
つんとそっぽを向かれてしまう。
「あの、ティエリアさん?」
そんなことをされたら、俺の背中はとんでもないことになる気がするんですが。
冷汗をかきつつ、どうやって宥めようかと頭を抱えていると、ノックの音がした。
こんなときにいったい誰がと思いながら、ロックオンはドアへと向かう。
開けてみれば。
「ロックオン、よかった。いたんだね」
妙に嬉しそうなアレルヤと刹那だった。
「どうしたんだ?おまえら」
「来る途中にね、猫を見つけたんだ」
二人が見せたのは子猫だった。それもご丁寧に一人一匹ずつ抱えている。
部屋の奥で何かが反応したと思ったのは、ロックオンの気のせいではないだろう。
「おい…」
「可愛いでしょう。紫がかった灰色の毛並みも綺麗だし、だから名前をつけたんだ」
「ちょ、おまえらっ」
ロックオンの顔色が青ざめているのにも気付かずに、アレルヤは続けた。
「こっちが‘てぃえ’で、そっちが」
「‘りあ’だ」
ゆらりと何かがロックオンの後ろに現れた。
「――誰が‘てぃえ’で‘りあ’だと?」
室温が一気に下がった。
「わっ!ティエリア、来てたの!?」
「だから来ているかもと」
「いつ言ったの?刹那っ?」
「思っただけだ」
「それじゃ意味ないよっ」
「油断大敵だな」
「君もだろっ」
「――あなた達は…っ―――」
吹き荒れるは絶対零度のブリザード。
「ティエリア、落ち着けっ」
「ご、ごめんっ」
「―――」
「遅いっ」
ティエリア女王様降臨。
「万死に値する!!」
その後、ティエリア女王様のご機嫌が直るまで、かなりの時間と労力を要したこと言うまでもなかった―――
終
2009/09/03
(初出2008/08/24コピー誌「日々の想いを…」より再録)