そんな男二人の困惑をよそに、ティエリアはさっさとベッドに入ってしまう。
「本当に、いいのかい?」
アレルヤが戸惑いながら訊く。
「ああ」
ティエリアは半身を起した状態で、むっとしたような表情で二人を見る。
「どうしたのです?寝ないのですか?ロックオン・ストラトス、アレルヤ・ハプティズム」
「―――」
よく考えればとんでもない状況なのである。
けれどもティエリアには‘その気’が全くないのであるからどうしようもない。
それどころか何故自分達が寝る場所に拘っているかなど、その理由を微塵も考えてはいないだろう。
ロックオンとアレルヤは顔を見合わせ、心中で溜息を吐くと、姫の仰せに従った。
ティエリアの右にロックオン、左にアレルヤが――勿論、できるだけ間を開けて――ベッドに入る。
「では、おやすみなさい」
「…おやすみなさい」
「おやすみ.…
明りが消され、静かに夜は更けていった。
翌朝、ティエリアが目を覚ますと、二人は既に着替えをすませていた。
「おはよう、ティエリア」
「よぉ、おはよう」
「……おはようございます。早いですね?」
「ん?俺達も今起きたばかりだ」
「そうですか…」
ティエリアはベッドを下り洗面所へと向かいかけ、ソファにいる二人を振り返る。
「眠れませんでしたか?」
「いーや、ンなことねえよ」
「うん、眠れたよ」
「―――」
ロックオンは片手をひらひらと振り、アレルヤはいつものように微苦笑を浮べた。
無言のまま洗面所へと入っていくティエリアの後姿を見送って、男達は深く大きく溜息を吐く。
眠れるわけがない。
もしかしたらティエリアの方が眠れないかもと、初めはロックオンもアレルヤも心配をしていた。
ところが直ぐにティエリアは眠ってしまったのだ。
それだけ自分達に気を許してくれているのだと嬉しくもあった。
ロックオンはそっとティエリアの様子を窺った。
想いを寄せている相手が隣で眠っている――それは素敵な状況である。
が、さらにその向こうには恋敵がいるのだ。
あっさり気持ちを切り替えて眠ってしまおうとするのだが、とかく感情というものはままならない。
眠ろうとすればするほど眠れなくて、それに追い打ちをかけるようにティエリアの微かな寝息も聞こえてくる。
穏やかな表情で眠るティエリア。
――こうしてると、ほんと、可愛いよな…――
つい顔がにやけてしまう。さらにはイケナイ妄想が浮かんできて、ますます眠れない。
ロックオンはそうっと、ベッドから抜け出した。
と、アレルヤも同じようにベッドから下りている。
どうやらお互い様のようだった。
何となく、気まずい同情を感じつつ、ロックオンはもう一つのベッド、アレルヤはソファに腰掛けて、悶々としながら朝まで過ごしたのだった。
「やはり、眠れなかったのですね」
洗面所から戻ってきたティエリアに、二人揃って大欠伸をしているところを見咎められる。
「休めるときに休んでおく、それがマイスターです。そもそも三人で寝ようなどと――」
姫のお説教が始まってしまった。
けれどそのお説教も、寝不足と妄想に侵された二人の頭には何の効果もなかった。
終
アレルヤがいなくてもロックオンの状態は一緒だったかも…(苦笑)
2009/10/20