重ねあう想いに



ガラス越しに見える、漆黒の中に浮かぶ地球をティエリアは指先でわずかになぞる。

重力に捕らわれるよりも、宇宙の方が落ち着いていたはずなのに。
今は足元が崩れそうな感覚に身体が震えだしそうだった。

―しっかりしなくては―

自分のせいで傷付けてしまった彼に、また心配をかけてしまう。
まだ彼には謝ることしかできていない。
もっと何か、言わなければならないことがある気がする。
けれど、それが何なのか、よく分からない。
ただ、胸の奥がざわついていて―苦しい。

「またここにいるのか、ティエリア」

後ろから掛けられた声―ロックオンの―に、どきりとする。

「休んでおけって、言っただろ?」
「休息はとった…」
「そうか?」
「あなたこそ、休んでいなくていいのですか?」
「んー、それよりもちょっと気になるって言うか…」
少し困ったようにロックオンは言い淀む。

「それは、僕、が…」
やはり、僕の不安が、不安定さが彼を、皆を傷付けてしまうから、と。

ティエリアは俯いて、その場を離れようとした。
「ちょっと待て、ティエリア!」
それをロックオンは止める。
「おまえが思っているのとは違うぞ」
「えっ?」

戸惑った表情で見上げてくるティエリアにロックオンは微苦笑する。
そんなに辛そうな顔をしているのに、考えていることが分からないわけがない。

「ロックオン?」
「―そうだな、こうゆうこと…」

言うと、ロックオンは両手でティエリアの頬を包むようにして、引き寄せ、唇を重ねた。
そっと触れるだけのキス。

「―どう?」
「……」

そんなことを訊かれても、答えられる言葉など浮かばない。

「嫌か?」
「―い、…じゃない…」
「良かった」

安堵したように柔らかく微笑むと、ロックオンは再び唇を重ねる。
さっきよりも、少しだけ深い口付け。

「――」

甘い吐息を漏らして口付けが解かれる。

ほろ、とティエリアの瞳から涙が零れた。

「―!?―お、おい、ティエリア…」
「―…あ…?―」

慌てているようなロックオンの様子と、頬に伝わるものに触れて、やっとティエリアは自分が泣いていることに気付いた。

「あー、えっとだな…―とっ、刹那!?」

ロックオンは突如、視界に入ってきた人物に声を上げる。
その声にティエリアも振り返ると、無表情に立っている刹那がいた。
いたたまれなくなり、ティエリアは外へと走り出た。

「―ったく…」
こんな時に、こんなところに来た奴が悪いのか、いや、先に気持ちを伝えるべきだったのか。
ロックオンは右手で、頭を抱えた。
と、そこへ、さらに追い討ちのようにアレルヤが入ってくる。
「あ、今、ティエリアとすれ違って、何だか様子が変だったんだけど…どうかしたの?」

―ああ、まったく…―

「――ロックオンがティエリア泣かせた」
刹那がぼそりと告げる。
「ええっ?!」
「あのなぁ、刹那…」
いったいいつから見てたんだ、だいたいおまえがと言いかけて。
「ちょっと、ワルいな」
実際、それどころではない。

ロックオンはティエリアの後を追った。
失礼、と、一応断って壁を蹴り反動をつける。
そうしないと追いつけない。

「ティエリア!」

追いついたのは、部屋の前だった。
「ちょっと待て、入るな」
入ったら多分、出てこないし、入れてくれない。

「……」
「―その、悪かったよ」
ティエリアの傍に来るとロックオンは言った。
「…謝ることはない…」
「えっ?」
「嫌じゃ、ないと言ったのは、僕だから…」
「だったら何で」
「分からない…分からないんだ…」

自分でも分からない。
どうしてあの時、泣いていたのか。

胸の奥が苦しい。

落ち着かない何があって。
でもそれは、嫌なものではない。
むしろそれは―

「ロックオン、僕は……」
「ティエリア…」
名を呼んで、ロックオンは紫の髪に触れようと手を伸ばした。
が、ひたと、その手を止め、来た方の通路の角をちろりと見る。

「何、ついて来てるんだよ、おまえら」
「え?だって、心配だったから。ね?」
言いながら姿を現したのはアレルヤと刹那。
「別に」
「何言ってるんだよ、刹那の方が先に追っておいて」

―ああ、もうホントにまったく…―

邪魔するなと、言ってしまいたい気もするが。

「ロックオン…」
傍で見つめてくる瞳に愛しさが重なる。
気持ちは通じている。
そのことにティエリアが気付くには少し時間が必要かもしれないが。
だからまあ、良しとするか。

それ以外の障害は、おいおい片づけていくことにしようと、ロックオンは決めたのだった。










あとがき


これも21話後に思い付いていたものです。だから眼帯のイメージはないんですね。
その部分をどうしようかと思ったのですが、そのままいきました。
まあ、あまり変わらないかな(笑)

しかし、うちのティエリアはすっかり乙女ですな、すみません(汗)


080321