約束(22話後のお話)
ティエリアがロックオンの部屋へ向かっていると、ちょうど彼が部屋から出るところだった。
「どこへ行くんです?ロックオン」
かけられた声にロックオンは立ち止まる。
「ティエリア」
「どうして、おとなしくしてないのですか?状況が変われば伝えます。刹那からも連絡があれば、すぐに」
彼のことだ。
気になって仕方ないのだろう。
「おまえは?」
「え?」
不意な問いかけ。
「おまえこそ、何でここに?」
「それは、ドクターにあなたの様子を…」
今まで睨むようにこちらを見ていたティエリアの視線が逸らされる。
ふっと、ロックオンは微笑んだ。
こいつに嘘はつけない。
ロックオンはティエリアの腰に腕を廻し、引き寄せる。
「なっ?」
「いや、嬉しくて」
「何を言って…本当に変な人ですね、あなたは!」
人が怒っているのに。
「愚かの次は変人扱いかよ。ひでぇなぁ」
「そうじゃないですかっ」
そんな怪我をしているのに、他人のことばかり心配して。
「泣くなよ」
俯いてしまったティエリアの髪をそっと撫でる。
「泣いてなど、ない」
きっと、顔を上げたその表情は今にも泣き出しそうなくせに。
「もう、離して―」
逃れようとするティエリアをロックオンは許さず。
「なあ、…もう一回、笑えよ」
静かで温かな声音。
「笑顔がみたい」
「どうして…」
「好きなやつの笑顔って、エネルギーになるんだぜ?」
そう言う彼の瞳は限りなく優しい。
けれど――
「―無理だ…」
「ティエリア…」
「でも―」
ティエリアは手を伸ばし、ロックオンの右目を覆っているものに触れる。
僕が傷付けてしまった彼の――
「…そう思うのなら、早く治して―…そうしたら、見せてあげてもいい」
その綺麗な青い瞳の前で、あなたに。
あなただけのために。
ロックオンは頬に触れているティエリアの手を、右手で包み込む。
「では、約束の印を頂けますか?」
「え?」
さらに深く抱き込まれ、見つめてくる青にティエリアは瞳を閉じた。
交わされる口付け。
それは―約束―
生き抜いて。
その想いとともに――
終
080328