人魚の目覚めるとき



ゆっくりと淀みなく流れてくる音声。

それを「僕」はすべて取り込んでいく。

大丈夫だ。すべて―

「僕」なら、いや、「俺」なら遂行することができる。

明滅を繰り返す赤い光。

たゆたうような感覚が心地良い。
海の中のように。

俺はこの計画のために―

そう、「俺」は…「私」は…―

「私」?

何かが揺らいだ。

それは何だ?

知らない。
「俺」が知らないモノ…

『―…リア』
「――」
『ティエリア…』
「誰?」

誰かが俺を、僕を、私を呼んでいる…?

『こっちだ』

声のする方へ顔を上げる。
揺れる波の向こうに見えるのは、明るい光と、人の影。

「誰?」
『こっちへおいで、ティエリア』

聞き覚えのある声。

「でも…」
『大丈夫だ』
「……」

大きな手が差し伸べられる。

『ティエリア!』

戸惑いながらも、僕はその手を取った。
強い力で引き上げられる。
眩しい光に一瞬、瞳を閉じる。

「見つけたぞ、ティエリア!!」

その声に「私」は瞳を開けた。

「―ロックオン…」
「心配かけさせやがって」
温かな優しい瞳が私を見つめている。

彼は抱き上げていた私を地上へ下ろした。

地を踏んだ脚に、ずきりと痛みが走った―胸の奥にも。

「痛むか?」

私はわずかに頷いた。

「その痛みごと、ここにいればいい」

差し伸べられた手は、私を支えてくれている。

合わせた瞳。
先を示すように向けられる彼の視線をティエリアは追った。


痛みを覚えた人魚は歩き出す――








080403
(090108一部改)