熱 惑



「―…跡をつけるなと、言ったはずだが?」

ベッドから半身を起こし、伸びやかな脚を床につく。
胸元を確かめるように指先で触れると、ティエリアは咎めるようにベッドにいる相手を一瞥した。
胸元に散っているのは幾つもの朱い跡。
「明日も俺が来る」
どこかムッとしたような声で、ロックオンはそう言って半身を起こした。
「…昨日は、来てたんだろ?」
「誰がですか?」
ふふっ、とティエリアは微笑して訊ねてくる。
分かっているくせに。
わざと言わせる気だ。
「─アレルヤだ」
「その前も、あなたでしたよ?」
小首を傾げ、こちらを見るティエリアの紫の髪がさらと零れる。
その仕草はあどけないのに、紅い瞳には妖しい艶を映している。
「その前は…?」
三日前は俺もアレルヤも地上にいた。
「─誰とも」
ティエリアは立ち上がり、床に落とされたままになっていたシャツを拾った。
それを肩にかけると、襟に絡んだ髪を指先で払う。
それすら扇情的だ。


きっかけは何だったのだろうか。
誘われた覚えはない。
ましてや柔らかな会話で触れ合ったこともなかった。
昼間のティエリアはむしろ、人を突き放すようなことしかしていないのに。
気付いたときには、抱きしめて、キスをして――抱いていた。

昼間の冷めた表情とは違う、妖艶な顔。
しっとりと手に馴染む、なまめかしい肢体。
知ってしまったら離れることなど出来はしない。


「他のヤツとは?」
拘っても無意味なのに。
「俺はマイスターだ。それ以外は、ない」

マイスターだからと、いうのか。
ならば─

「…刹那とも、したのか?」
「しましたよ」
紅い唇が弧を描いて、艶を増す。
「キスだけですが」
くすとティエリアは微笑う。
「いきなりでしたから驚きましたけどね」

ああ、あいつも、もう…─
あいつもティエリアを欲していくのか。

それでもこいつは拒まない。求められるままに、白い喉を晒して、嬌声を上げる。
己に触れた者が離れられなくなるのを知っているから。
ここへ、ティエリアの下へ戻って来るように。

それはヴェーダの計画なのか。
それとも、ティエリアの─


「ずい分と気にするんですね、ロックオン」
「悪いか?」
「いいえ」
はらりと、肩にかけていたシャツを脱ぎ捨てる。
ロックオンの前に晒される白い躰。
しなだれかかるように、ティエリアはロックオンの膝の上に躰を預ける。
「あなたにそう言われるのは嬉しいのですよ。何故か、ね」
紅い瞳が優しく微笑んだ気がして。
ロックオンはティエリアの背に腕を廻し、胸の飾りに歯をたてた。
「あ…ん」
熱の残っているティエリアから甘い声がすぐに漏れた。その躰を抱き込んでベッドに倒れ込む。
「ティエリア…」
「─っ、あっ…ロックオン…」
甘い声と沸き上がる熱にすべてが消されていく。

ロックオンは艶やかな白い肌に溺れていった──







080428