「どうした!?」
「………」
ティエリアの身体ががくりと倒れ込み、ロックオンはそれを抱き留めた。
「ティエリア?!おいっ、しっかりしろ!――ティエリア!?」




 ◇ ◇ ◇



「ドクター、ティエリアは?」
診察室から出てきたモレノにロックオンが訊ねた。
あのまま気を失ってしまったティエリアを抱きかかえて医務室に走り込んだ。
その状況を聞いたスメラギやアレルヤ、刹那も集まってきていた。
「身体的には問題はない」
医師の言葉に皆の表情が幾らか和らぐ。
「──身体的にってことは他に何か?」
思案げなモレノの様子を察したスメラギに、アレルヤが続ける。
「まだ、意識が戻らないのですか?」
「いや、意識は戻っている――」
一度、言葉を区切って。
「―会ってみるか」
どこか独り言のようなそれに、不安を感じながら奥の診察室へと皆も入った。
ティエリアはベッドに上体を起こして座っていた。
「ティエリア!」
ロックオンが呼んだ。
しかし返事が、いや反応がない。
「―…ティエリア?」
少しして、ゆっくりと、ほんのわずかだがティエリアの顔がこちらを向く。
だが、表情がなかった。
それはいつもの彼が見せるものではなく、まるで人形のような顔。
何も映していないような紅い瞳がこちらを向いている。
「ティエリア!?」
「ドクター、これは?」
スメラギが問う。
「さっき目を覚ましてからずっとこんな状態だ。何も話さんし、自ら動こうともせん。こちらの言うことを理解はしているようだが…」
「それはどういう…」
「記憶を失っているらしい」

─!?─

その言葉に驚き、皆がモレノを見た。頭部を打ったためだろうと彼は続けた。
「だが、どうしてこんな状態に?」
「おそらく―」
《ティエリア、ティエリア》
ロックオンの問いに答えようとしたとき、不意に電子音声が飛び込んできた。
ハロだった。
何事かと見る皆の頭上を、耳を動かしながら飛び越えると、ティエリアの膝の上にちょこんと降りる。
《ハロ、ハロ、ティエリア》
ティエリアの顔もハロの方へと向く。
《ティエリア、ティエリア》
ハロは耳をパタパタさせたり、目をチカチカさせながらティエリアの名を呼ぶ。
まるで何かを話しかけているようにも見える。

「―――」

暫くして、ティエリアの右手が静かに動き、ハロに触れた。
《ティエリア!》
ハロが嬉しそうな―そう聞こえた―声を上げた。
「ティエリア」
モレノが近付いて呼んだ。
ティエリアは顔を上げる。さっきよりも反応が早くなっていた。
問診を終え、モレノは皆へと向き直りティエリアの記憶は、やはり退行していると告げた。
けれど、今の様子を見ると回復は早いだろうとも。
「とにかく、今はティエリアを休ませてやるといい」
「そうね。誰かティエリアを部屋に連れて行ってあげて」
「ああ…ティエリア」
ロックオンがベッドの傍に行って声をかける。
「………」
ティエリアは凝っとロックオンを見上げる。視線が先程とは違いしっかりしていた。
――が。
ベッドを降りたティエリアはロックオンではなく、刹那の傍に行ってしまった。
刹那に寄り添うどこか不安そうなティエリア。
信じられない光景に皆は驚きを隠せない。
付け加えれば、ロックオンには避けられたショックもある。
それに、一番驚き、当惑しているのは刹那だった。



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