刹那は眉間をわずかに寄せたまま、硬直している。
「ティエリアは今、幼い子供と変わらんからな」
小さな子供は自分と年の近い相手に懐くことが多い。
そのためかと何となく納得して。
「―まあ、今のティエリアから見れば、ロックオンもアレルヤもおじさんということだ」
「おじ…」
「僕も…ですか?…」
医師の冷静な言葉に、マイスター年長組は引きつった笑みを浮かべたのだった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
ロックオンはティエリアを気にかけつつも、昨日のこともあり、そのまま食堂へと向かった。
その入口近くに来たとき、中から刹那が出て来た。
「刹那」
「ロックオン」
「ティエリアは?」
刹那は昨日、スメラギからティエリアの相手をするように言われていたのだ。
「中にいる」
食堂内に視線を向けるとティエリアはテーブルに着いていた。
「何か変わったことは?」
「別に」
いつもと同じ、素っ気ない返事かと思えた。
「昨夜も問題はなかった。今朝も俺が行ったときには着替えを済ませ、部屋を出ようとしていた」
けれどやはり刹那も動揺しているのだろう。
こちらが訊く前に一気に話している。しかもどこかぎこちない。
「少しは話すようになったか?」
「―――」
「何だ?話はしてないのか?ドクターになるべく話しかけろって言われてただろうが」
「――ティエリア・アーデと何を話せと言うんだ?」
「何って…」
こういう場合はごく普通に話せばよいだけだ。けれど確かに普段からあまり会話のない二人だ。
しかも今のティエリア相手では尚更か。
「そういうのはおまえの方が向いているだろう」
言うと、刹那は立ち去ってしまった。
「おいっ…」
思わず出た手をロックオンは頭に回し、かりかりと掻く。
―そうしたいのは、やまやまなんだがな―
昨日のことを考えるとやはり躊躇われる。どんな状態のティエリアにでも嫌われたくはない。
ロックオンは覚悟したように小さく嘆息し、食堂へと入った。
カウンターからパンやコーヒーの乗った朝食用トレイを取って、ティエリアの方を見た。
視線に気付いて、ティエリアもこちらを向いた。
「おはよう、ティエリア」
やはり返事はないが、瞳はロックオンを見たままでいる。
《オハヨウ!ロックオン、ロックオン》
ひょこんとテーブルの下からオレンジの球体が飛び出してきた。
「ハロ!なんだ、おまえ…もしかしてティエリアと一緒にいたのか?」
《一緒、一緒!ハロ一緒!》
「そうか。―ここ、座ってもいいか?」
努めて穏やかな口調で、一つ席を空けて右隣の椅子を示す。
「……」
ややあって、こくりとティエリアの首が縦に振られた。
テーブルにトレイを置き、席に着く。
「もう食べたのか?」
こくんと頷く。さらと細い紫の髪が揺れる。
「何を食べたんだ?」
「―……」
《フルーツ、フルーツ!》
ハロは跳ねて、ティエリアの前に降りた。
《フルーツ食ベタ!》
ゆらゆらと左右に揺れるハロをティエリアは穏やかな表情で見ている。
「フルーツだけか?もっとしっかり食べないとダメだぞ」
ロックオンはそっと、ティエリアの頭を撫でる。
びくりと、ティエリアの身体が震え、慌ててその手を引っ込めた。
「悪い―驚かせちまったな」
つい、いつもの調子でしてしまった。
せっかく、このまま打ち解けられるかと思ったのに、また避けられるかもしれない。
「おはようございます、ロックオン。おはよう、ティエリア」
落ち込みそうな気分のところに声がした。
《アレルヤ、オハヨウ》