抱きしめてしまったと、ロックオンは自分の手を見ながら苦笑する。
「らしくねぇよな」
自分達が今しようとしていることとはあまりに矛盾している。
「ロックオン…」
その気持ちはアレルヤにも何となく分かった。
自分にとって大切な存在(もの)を守りたい―その想いは―
「…でも、」
アレルヤは少し間を置いて、苦笑まじりに言った。
「そんなことをしたら、怒るでしょうね」
「だろうなぁ…」
ロックオンも情けなさそうに笑い、壁に背を凭れさせる。
ヴェーダの計画遂行を盲目的なまでに己が使命としているティエリアだ。
もしそんなことをしたら、記憶が戻ったときには、烈火のごとく怒るだろう。
「それに、避けられちまったしな…」
「えっ?」
「さっき見かけたとき、あいつ、俺を見て逃げたんだよ」
ロックオンは困惑したように後頭部を右手で掻く。
「ティエリアを傷付けたみたいだし…ちょっと頭冷やしたいからな」
そんなわけだから、少しの間、ティエリアを頼むと言われたのだった。
食事を終えたらしいティエリアが、ナイフとフォークを置いたのを見て、アレルヤは口を開いた。
「ティエリア、訊いていい?」
ティエリアは視線をアレルヤへと向けた。
黙ったままではあるが、真っ直ぐに向けられた紅い瞳に少し気圧されながら、言葉を続ける。
「―えっと、君さ、ロックオンのこと、怒ってるのかな?」
ティエリアはわずかに俯く。
「さっきね、彼に会ったんだけど、ずい分落ち込んでたんだ…君に嫌われたかもって…」
「――ックオン…」
「えっ?」
細く、呟くような声が聞こえた気がして聞き返す。
「…嫌ってない―怒ってなんかない…」
「だったら、どうして?」
「――どうして…」
ティエリアは自分の胸元の服を手で握りしめる。
「ティエリア……じゃなくて!」
アレルヤは慌ててがたんと立ち上がる。
「話せるようになったんだね!良かった〜!ロックオンに…あ、先にドクターのところに行かなくちゃ!」
大騒ぎするアレルヤに、ティエリアは医務室へと連れて行かれたのだった。
◇ ◇ ◇
「――ということで、前から気になってたんだけど、」
回復は順調、あと一息との、モレノの診断を受け、スメラギが左手を腰に当ててマイスター達へと向き直る。
「いくら重力制御システムのエラーだったとしても、ティエリアが頭を打つなんて考えられないのよね」
「あ、僕もそう思います」
「…俺もだ」
「?」
「―――」
怪訝な顔のスメラギに、アレルヤと、いつもは黙っている刹那までが同意を示す。
当のティエリアは分からないといった表情を見せて、返事に困っているのは一人だけだ。
「ねぇ、ロックオン?」
目を眇めたスメラギの視線が返事に困っている者へ向く。
「あ、ああ…」
「何を、していたのかしらね」
想像はつくけどと、スメラギとアレルヤは内心で思う。
「ロックオン」
「何だ?刹那」
「おまえが殴ったのか?」
「は?何で?」
「俺は殴られた」
「それは理由があるだろうが」
秘匿義務違反というりっぱな理由が。
「俺がガンダムだ」
相変わらずの突飛な発言にどう対処したものか。
「俺も、ティエリアもガンダムマイスターだ」
「――マイスター…」
ぽつりとティエリアが呟く。
「ティエリア?」
思い出したのかと、ロックオンが隣にいるティエリアを覗き込むが、彼は首を横に振った。