「……」
ティエリアはわずかに瞳を見開いたが、頬を包む手のひらを確かめるようにゆっくりとその紅を閉じる。
―…あたたかい…このあたたかさを、僕はしって、いる…?…―
触れる温かさに包まれていく。
強くて優しい何かが溢れてくるような――
―知っている…とても大切な温かさだ―
(何故ダ?何故ソンナモノヲシッテイルノダ…ソレハ必要ノナイモノ)
ティエリアの心の奥に、小さな声がした。
(必要ナイ。まいすたートシテ作ラレタモノガひとト同ジ感情ナド―)
それが大きくなり、びくんとティエリアの身体が震え、ロックオンから離れた。
「ティエリア?」
「…あ…」
ティエリアは両手で頭を抱え込むようにして後ずさる。
「ダメダ、僕ハ…俺ハ……」
「ティエリアッ…ティエリア!」
青ざめ震える細い身体をロックオンは抱きしめた。
「な、に…放セ。俺ハ…」
「放さねぇ」
ロックオンは腕に更に力を込める。
「なぜ…?」
「おまえが好きだからに決まってんだろう」
「……」
―ス、キ…?…―
ティエリアは戸惑いがちに顔を上げる。
「俺はおまえが好きで…おまえも、そう想ってくれていたんだ…それがどんなに大切だったか」
空色の瞳が優しく微笑む。
「ティエリア」
「…ロック、オン…」
―たいせつ…そうだ、とても大切な…―
(違ウ、大切ナノハヴェーダノ計画ヲ―)
「!」
ずきりと頭が痛み、記憶の流れが巻き戻されていく。
「―痛っ!僕は…」
「ティエリア!?」
「ダメダ、俺ハヴェーダにのみ……!!」
高速で巻き戻される感覚に目眩を起こしそうになる――それを何かが引き止めた。
それが何なのか、直ぐには分からなかった。
強くて優しい何かなのに、息苦しくて。
「…んっ…」
少しずつ熱くなり、さっきとは違う目眩に身体から力が抜けていくようだった。
頭の奥でそれがぼんやりと何なのか分かってくる。
抱きしめられ、口付けられている――
そして、自分にこんなことができるのは、彼――ロックオンだけだと。
「…ふっ…あ…」
くたりと身体を預けてしまって、漸く口付けを解かれた。
「…ティエリア……」
パシンと甲高い音がした。
「―痛てっ…」
ロックオンは左頬を押さえてティエリアを見る。
「何をするんですかっ?ロックオン!」
「…ティエリア?」
「ティエリア?じゃありません!所かまわずこんなことをしないで下さいと、いつも言っているでしょう!?」
「…おまえ、戻ったんだな?」
「えっ?」
「良かった!」
「え、ちょっ、な…ロックオン?」
心底嬉しそうなロックオンにきつく抱きしめられ、ティエリアは困惑したのだった。
◇ ◇ ◇
「記憶を失っていたのですか…」
医務室でドクター・モレノからことの経緯を聞き、記憶が戻ったことをスメラギ達に知らせた後、ティエリアはロックオンと自室に戻っていた。
部屋に入りベッドに腰を下ろすと、ティエリアは幾分気落ちしたように呟いた。
「事故だったんだから、気にするなって」
「……」
「皆も喜んでただろう?」
「だが、失態だ…」
「誰もそんなこと思ってねぇよ。計画にも何の支障もない」
ティエリアは俯いたままだ。
ロックオンは隣に座る。
「記憶を失っていたときのこと、何か覚えているか?」
「…断片的ですが」
話を聞き、ここ数日のことを思い出そうとしてみたが、全てがどこかぼんやりしていた。
だが、そのほとんどがロックオンに関するものだった。
だからこそ、心苦しかった。