それは誤解?
ドアの前で数瞬躊躇い、浅く呼吸を一つして、ティエリアは治療室の中に入った。
奥へと足を進めると、ベッドに横になっているロックオンが見えた。
「よお、どうした?」
ロックオンはティエリアを見ると、半身を起こした。
「起きていいのか?」
「ああ、さっき注射されて、無理やりドクターに寝かされてただけだからな」
いつもと変わらない口調に胸が痛んだ。
「ロックオン…」
「ん?」
ティエリアは落とした視線を彼へと向ける。
「どうして…何故、僕を庇ったのです?」
「どうしてって、そりゃあ…仲間だし」
「な、かま…?」
「おまえだって、逆の立場だったら―」
「そんなことはない!」
何かを振り切るように言って顔を背ける。
「ティエリア?」
「僕は、僕だったらあんなことはしていない!きっとそのまま……」
ティエリアの端正な顔が苦しげに歪む。
「ティエリア」
少しだけ強い声で、ロックオンはティエリアを呼んだ。
その声に引かれるようにティエリアは彼の方に歩み寄る。
傍まで来たとき、ロックオンはティエリアの腕を掴み引き寄せた。
「ロ、ロックオン?」
彼に抱き留められた形になって、ティエリアはうろたえた。
慌てて躰を離そうとすると、さらに強く抱き寄せられる。
「大丈夫だ。これからだろう」
「――」
宥めるように抱きしめている腕の中が、信じられないほど温かく優しくて。
何かが胸にこみ上げてくる。
このまま、全てを預けてしまいたいような――
ふと、人の気配に気づいて二人はそちらを見た。
そこにはアレルヤと刹那が立っていた。
が、アレルヤは慌てて刹那の目を両手でふさぎ、視線をそらした。
「失礼っ」
「誤解だ」
「誤解?」
ロックオンの言葉に不思議そうにハモったのは刹那とティエリア。
「―いや、誤解じゃないかも」
「え?」
それが聞こえたのは傍にいたティエリアのみ。
まだ不思議そうにしているティエリアに笑顔を返して。
「よし、せっかくだからコーヒーでも飲みにいくか」
「大丈夫なんですか?」
「当然!―おまえもくるだろ?ティエリア」
「…そうですね」
四人は治療室を後にした。
そこを出るまでティエリアの肩に掛けられていたロックオンの手は、払われることはなかった。
終