Good night?



「明日14時11分発のリニアトレイン、か…ティエリア」
「ええ」
今し方入った連絡に携帯端末を閉じると、ティエリアは溜息を吐き、その様子にロックオンは苦笑する。
二人はある田舎町のホテルにいた。
別々の地区でのミッションを終え、朝にはトレミーに帰還する予定だったが、ターミナル・ステーションの爆破予告―結局は悪戯―があり、面倒を避けるために予定を変更した。
夕方にはトレインに搭乗するはずだった。
が、今度は都市部に通じる幹線道路が土砂崩れに遭い、通行止めになった。
思いの外、広範囲なそれに復旧作業が終わるのは、翌朝になるとのことだった。

ティエリアはちらりと、ロックオンに恨みがましい目を向ける。
爆破予告騒ぎを避けるために都市部を離れようとしたのは、良いと思う。
少し調べられたくらいでは、自分達の素性がばれるわけではないが、リスクは低い方がいい。
だが、彼がせっかくだから遠出しようと言わなければ、土砂崩れなどに遭わなくてもすんだのにと思うと、つい、苛ついてしまう。
とはいえ、コントロールのきかない自然相手。ただの八つ当たりに過ぎないと考えるとますます苛立つ。
ホテルのロビーには同じように足止めされている旅行客などもいて、ティエリアは諦めたように視線を落とし、深く嘆息した。
一方、ロックオンはティエリアの心中を察しつつも、思いがけず出来た二人きりの時間を喜んでいた。
あまり大きくないホテルが幸いして、ダブルもとれたし、口説くチャンスだ。
しかし予定外が続いた後だ。姫のご機嫌が気になるところではあるが、それは何とか頑張るしかない。
「ティエリア、ここにいても仕方ない。時間も遅いし、部屋で休むぞ」
「…そうですね」
フロントでルームキーを受け取って、エレベーターに向かおうとしたとき、携帯端末が鳴り、それとほぼ同時に聞き覚えのある声がした。
「ロックオン、ティエリア」
「アレルヤ!…どうしてここに?」
「えっ?聞いてないんですか?」
「何を?」
「―アレルヤ・ハプティズムも、同じトレインで、ということです」
端末のメッセージを確認したティエリアが、ロックオンに告げる。
「え、何、それじゃ、おまえも――」
「うん。あの災害でしょう?部屋が取れなくて困ってたんだ。で、それをスメラギさんに言ったら、ロックオン達がここにいるって教えてくれたんだ」
「それで、ここに来たと…」
「うん」
にこにこと嬉しそうなアレルヤに、悪魔の尻尾が見えるのは気のせいではないはずだ。
「あー、でももう俺達は部屋取っちまったからなぁ。この状況だと難しいかもな」
「……そう…」
いつもなら遠慮がちな彼が、見るからにしゅんとする。
絶対に確信犯だ。
「分かった。ここに泊れ」
「えっ!?」
ティエリアの言葉に、大の男二人が、一人は嬉しそうに、もう一人は顔を引きつらせて疑問形に固まる。
「ちょ、ティエリア…!」
「仕方ないでしょう、ロックオン。明日のトレインも同じなのです。今からアレルヤ・ハプティズムを一人で行動させ、これ以上予定を変更などしたくはありません」
「う…」
確かに、このままアレルヤの部屋が取れず、時間を浪費するのは本意ではない。
ミッション優先のティエリアらしい結論ではある。
しかし、ロックオンとアレルヤの間にあるものは全然違うものなのだが。
「そうだな…」
真っ直ぐな紅い瞳には逆らえず、しぶしぶロックオンはフロントに人数追加を申し出る。
「すませんが、一人いいですか?」
「えっ?はい…こちらは助かりますが…」
何故かフロント係は難色を示す。
「あの、失礼ですが、お客様方はご家族でいらっしゃいますか?」
「え、まあ、そんなようなものですが…」
「このような状況ですので、お客様方にはご不便をおかけしまして、大変申し訳ないと思っております。ですが、その…このようなときですので、新たにトラブルなどが起こることもございまして…」
「はあ…?」
いったい何の事だろうと、長身の二人は顔を見合わせる。
「その…お若い男性お二人と、ですね…」
真面目そうなフロント係はロックオンとアレルヤ、それから少し後ろにいるティエリアを見比べながら申し訳なさそうに言葉を続ける。
「あのように美しい、いえ、お若い女性がご一緒というのは、その…」
そこまで言われて漸く気付く。彼の心配と誤解に。
ロックオンとアレルヤは小さく噴き出し、ティエリアは一瞬ぽかんとして、直ぐに眦がつり上がった。
「ロックオン!あなたは俺を女性だと言ったのですか?」
「言ってねーよ!」
「ですが、チェックインしたのはあなたですよね?」
「違うって。そんな必要ねぇだろうが…」
鋭い視線が隣へと向く。
「ぼ、僕は何もしてないよ」
ふるふるとアレルヤは首を横に振った。
その様子にフロント係は平身低頭し、無事(?)部屋を確保となったのだった。



次へ