「大きいベッドですね」
部屋に入って、目に飛び込んできたキングサイズのベッドにアレルヤが呟く。
ほどほどの広さの部屋なのだが、エキストラベッドのせいで幾分狭く感じる。
とはいえ、他にもソファやテーブルとチェアもあり、落ち着いた色調でまとめられていて、こんなときでなければ十分寛げる雰囲気だ。
「さて、どうするか」
「そうですねぇ」
この大きなベッドを誰と誰が使うか、と、約二名は考える。
勿論、‘誰’の片方はお互いに決まっている。
邪魔者の存在もあるが、まずそれをその相手が了承してくれるかどうかという大問題があった。
――と。
「そちらはあなた方が使って下さい」
「へ?」
「ティエリア?」
さらっと問題発言をしてティエリアは奥のテーブルへと向かい、
「俺はこちらを使わせてもらう」
と、エキストラベッドを視線で示す。
「何で?」
「体格を考えれば当然でしょう」
確かにエキストラベッドに比べればもともとあるベッドの方が大きいが。
「俺とアレルヤに、あれを使えと…?」
「?二人用なんですから。何か問題でもあるのですか?」
真面目な顔で訊ねるティエリアに、問題大有りだと二人は心中で叫ぶ。
「それはダメだよ、ティエリア」
「何故だ?」
「え…だって、君を一人って、……」
「そうか。なら、俺はソファで休む―」
「それはもっとダメだよっ、それなら僕がソファで寝るから…」
「アレルヤ・ハプティズム、君はいつも――」
「あー、取り敢えずシャワーを浴びて、それから決める。いいな?」
話が違う方向に行きそうなのをロックオンが制する。
「うん…」
「――お先にどうぞ。俺は調べ物がありますので」
ティエリアはそう言うと、テーブルについて端末を取り出し、操作し始める。
ロックオンはアレルヤを促して、シャワールームへ押しやった。
ベッドに腰かけて、ティエリアを見る。
彼はこちらを一向に気にすることもなく、データを追っている。
ふうと、息を吐く。
せっかく口説くチャンスだと思ったのに。
――ったく、とんだ予定外だぜ、まったく…――
ロックオンはかりかりと頭を掻いた。
ティエリアがシャワーを浴びて戻ってくると、先に上がっていた二人はソファに腰かけていた。
出てきたティエリアに気付くと、二人はすっくと立ち上がりこちらを向いた。
その勢いに少しばかり驚いたが、ティエリアは表情を変えずに訊いた。
「…何ですか?」
「アレルヤと話したんだがな、おまえはこっちのベッドを使え」
ロックオンはキングサイズのベッドを指差す。
「俺はソファでと…」
「それは却下」
「どうして―」
「多数決だから、ね?」
「多数決など!」
「一人が嫌なら、三人で寝るか?」
「えっ?」
「俺達のことを気にしてくれるんなら、おまえを真ん中に三人一緒というテがあるが?」
「うっ…」
にやりと、二人が笑った気がしてティエリアは返答に困った。
ちらとベッドを見る。
いくら大きいサイズとはいえ、三人一緒は抵抗がなくはない。
ロックオンとアレルヤへと視線を戻せば、やはり薄笑いを浮かべている――ようにティエリアには思えた――のが癪にさわった。
「いいでしょう。一緒に寝ましょう」
「は?」
「ティエリア!?」
意外な言葉に訊いた方が驚く。
「何を驚いているんです?あなた方が言ったのではないですか」
確かにそうだ。
だがそれは、ロックオンもアレルヤもこの状況ではどちらもティエリアと、というのは好ましくないし望めないと判断した。
それなら大きなベッドで彼を休ませてやりたい、ならば、どうすればいいかと考えてのことだった。
あまり人との接触を好まない、どちらかといえば不慣れな彼のことだから、こう言えば一人で休むと言うと思ったのだ。
しかしそれは、姫の臍を曲げさせた結果になってしまったようだった。
「これだけの幅があれば、何とか三人横になることも可能でしょう。非常事態だと思えば、休むことはできます」
非常事態ってなんだよ、と二人は内心突っ込んでみる。